最新版「高齢社会白書」を読み込んでみて岡島利夫

 平成30年度版の標記白書が最近発刊された。クラブ活動の一環として右を読み込んでみた。下記Iにて同白書の概要を紹介し、IIにおいて、この白書のベースとなった「高齢社会対策大綱」(平成30年2月16日閣議決定)の概要を紹介する。IIIにおいて、私の感想と思いつきにつき記載しておく。

I、「高齢社会白書(平成30年版)」(内閣府編集、日経印刷発行)の構成と概要。
第一章 高齢化の状況
第一節 高齢化の状況
1.高齢化の現状と将来(現在の高齢化率は27.7%、2065年の日本の総人口は9000万人、2.6人に一人が65歳以上、将来の平均寿命は男性84歳、女性91歳)
2.高齢化の国際的動向(世界中での高齢化、中でも我が国の高齢化はもっとも高い)
3.家族と世帯(65歳以上の者がいる世帯は全世帯の半分、単独世帯・夫婦のみ世帯が全体の過半数、65歳以上の一人暮らしが増加)
4.地域的に見た高齢化(最も高い秋田県で35.6%、最も低いのは沖縄で21%、埼玉県は26%)
5.高齢化の要因(死亡率の低下、少子化)
6.高齢化の社会保障給付費に対する影響(過去最高を更新する社会保障給付費)
第2節 高齢化の暮らしの動向
1.就業・所得(経済的な暮らし向きに心配ないと感じる60歳以上の者は64.6%、世帯主が60歳以上の世帯の貯蓄現在高は全世帯の1.5倍)
  他方、65歳以上の生活保護受給者は増加傾向にある。労働人口に占める65歳以上の者の比率は上昇している。
2.健康・福祉
(1)健康(65歳以上の者の体力は向上傾向にある、健康寿命を延びている)
(2)65歳以上の者の介護(要介護度等の数は増加している、自宅で介護を受けたい人は73.5%、介護費用は年金等で賄えると考えている人は63.7%、介護施設の定員数は増加している、介護職員も増加しているが不足感がある)
3.学習・社会参加
(1)60歳以上の者のグループ活動・学習(60歳~69歳の7割、70歳以上5割が働いているか、ボランティア活動他、地域社会活動や趣味の活動に参加している)
(2)60歳以上の者の学習活動(生涯学習を行っている60歳以上の者は約4割)
4.生活環境
(1)65歳以上の者の住まい(約8割が持家に居住している)
(2)安心・安全(交通事故死亡者数に占める65歳以上の者の割合は54.7%、振り込め詐欺の被害者の8割が60歳以上、70歳以上の者の関与する消費トラブルの相談は屋久17.6万件、養護者による虐待を受けている高齢者の約7割が要介護被認定者、成年後見人制度の利用者は増加、人との交流が少ない人は女性に比べ男性が多い、約4割の60歳以上の者が孤独死の不安を持っている)
(3)60歳以上の者の自殺者が増加している。
5.研究開発等
(1)インターネットで調べる医療・健康情報等、インターネットの活用。
(2)介護をする際、介護を受ける際のそれぞれで介護ロボットを利用したいと考える人が増えている(それぞれ59.8%と65.1%)
第2章 平成29年度高齢社会対策の実施の状況
第1節 高齢社会対策の基本的枠組み
1.高齢社会対策基本法
2.高齢者対策会議
3.高齢社会大綱
4.高齢社会対策関係予算(20兆6,712億円)
5.総合的な推進のための取組
(1)社会保障と税の一体改革について
(2)一億層活躍社会の実現に向けて
(3)働き方改革の実現に向けて
(4)人生100年時代構想会議
第2節 分野別の施策の実施の状況
1.就業・所得
(1)エイジレスに働ける社会の実現に向けた環境整備(高齢者等の再就職の支援・促進等)
(2)誰もが安心できる公的年金制度の構築
(3)資産形成等の支援
2.健康・福祉
(1)健康づくりの総合的推進(介護予防の推進等)
(2)持続可能な介護保険制度の運営
(3)介護サービスの充実(介護離職ゼロの実現等)
(4)持続可能な高齢者医療制度の運営
(5)認知症高齢者支援施策の推進
(6)人生の最終段階における医療の在り方
(7)住民等を中心とした地域の支え合いの仕組み作りの促進
3.学習・社会参加
(1)学習活動の促進(社会教育・文化活動・スポーツ活動の振興、自然とのふれあい、ICTリテラシーの向上等)
(2)社会参加活動の促進(多世代による社会参加活動の推進、高齢者の社会参加と生きがいづくり、市民やNPO等の担い手の活動環境の整備等)
4.生活環境
(1)豊かで安定した住生活の確保(リフォーム環境の整備、良質な高齢者向け住まいの供給等)
(2)高齢者社会に適したまちづくりの総合的推進(共生社会の実現・推進、多世代に配慮したまちづくり、公共交通機関・建築物・公共施設等のバリアフリー化推進、訪日外国人旅行者の受入環境整備、活力ある農山漁村の再生等)
(3)交通安全の確保と犯罪、災害等からの保護(悪徳商法からの保護、防災施策の推進等)
(4)成年後見人制度の利用促進
5.研究開発・国際社会への貢献等
6.全ての世代の活躍促進
第3章 平成30年度高齢社会対策
第1節 基本的な取組(概ね上記平成29年度の対策を踏襲)
高齢社会対策関係予算(21兆0.690億円)
第2節 分野別の高齢社会対策(概ね上記平成29年度の対策を踏襲)
以上

II、高齢社会対策大綱の概要(平成30年2月16日閣議決定)
改定の経緯:平成29年6月~10月に有識者会議を開催、座長:清家篤(慶應義塾大学商学部教授)
1.大綱策定の目的
65歳以上を一律に高齢者とみるのは現実的ではなく、70歳以降でも、意欲・能力に応じた力を発揮できる時代が到来している。高齢化に伴う社会的課題に対応し、全世代が満ち足りた人生を送ることができる環境を作る。
2.基本的考え方
(1)全ての年代の人々が希望に応じて意欲・能力をいかして活躍できるエイジレス社会を目指す。
(2)地域における生活基盤を整備し、地域コミュニティーを作る(多世代間の協力拡大、社会的孤立防止、安全・安心に暮らせるコミュニティーつくり)。
(3)技術革新の成果が可能にする新しい高齢社会対策を志向する。
3.分野別の基本的施策(概ね上記白書の第3章第2節の「分野別の高齢社会対策」へ反映)
(1)ニッポン一億総活躍プラン、働き方改革実行計画、新しい経済政策パッケージ等との連携
(2)推進体制:数値目標等の設定、関係行政機関間の綿密な連携・協力。

III、感想と思いつき
1.そもそも「高齢社会白書」は松山政司・内閣府特命担当大臣(少子化対策、男女共同参画、クールジャパン戦略、知的財産戦略、科学技術政策、宇宙政策)の名において発行されている。上記カッコ書きの職務担当の中に「高齢社会」の文字すら見えていない。それに加えて、例えば財務省等と異なり独自の上屋とスタッフを構えておらず、各省から寄せ集めた人材がそれぞれの出身省庁からの情報を寄せ集め、白書を編集することになるので、内容が網羅的にならざるを得ない。このような中、担当大臣として強い権限を持って、各省に対して指示・指導できる体制にはなってない。つまり大臣自身に、これら白書に書きあげられた各項目に関しての実行能力はないと言わざるを得ない。
2.「高齢社会白書」と名を打ちながら、内容は一億総活躍、男女共同参画、多世代間の協力、働き方改革といった現代社会全般に関わる問題と連携させていることから、「高齢者」に特化した問題なり、施策の提言とはなっておらず、その分、高齢者問題が置き去りになって感が否めない。
3.この白書の実効性についてであるが、記載事項を、それぞれの所管担当省庁に振り分けたとしても、その実行主体は県他の地方自治体となり、更にその下の市町村へと指示が下達されだけで、すべて末端行政機関にしわ寄せがくる仕組みとなっている。例えば上記高齢社会対策大綱に謳われている「地域における生活基盤を整備し、地域コミュニティーを作る(多世代間の協力拡大、社会的孤立防止、安全・安心に暮らせるコミュニティーつくり)」一つを見ても、そもそも地域コミュニティーが崩壊している現状にあって、その実現は困難である。知人の地域コミュニティー・コーディネーターの一人に現状を照会したところ、「大綱や白書で謳いあげるような理想の社会づくりを考えると、困難の一文字が頭をよぎってしまうので、少しでも高齢者たちのお役に立てることができればとの思いで、日々身の回りの出来ることからコツコツと取り組んでいくしかない」と心の内を述べていた。
4.白書を読んで気づいたことであるが、例えば白書に「ICT」なる横文字が19か所、「iDeCo」なる文字が6か所、記載されている。しかし、そのどこをみても、その文字の本来の意味である横文字なり、その文字の意味は解説されていない。この白書は誰に向けて書かれているのか疑問を感じざるを得ない。今や笑い話の一つとなっているが、世の中でIT技術とか、IT革命とかの言葉が新聞紙上等に頻繁に取り上げられてきた時期に、時の総理が部下に対し、「it(イット)とは何か?」と聞いた話は有名である。白書を記述した役人にとっては自明の言葉かも知れないが、この白書を真剣に「高齢者」たちに伝えようとする気概は一切見えない。釈迦に説法かも知らないが、念のため関連文字の説明を簡単に次の通り記載しておく。
(1)「IT」Information Technologyは情報通信関連の機器・技術の総称 IT技術の発展とIT革命とか使う。
(2)「ICT」Information and Communication Technologyは「IT」に代わる言葉、時代はITからICTへと変化している。
(3)「IoT」Internet of Thingsはモノがインターネットとつながる仕組み・技術。
(4)「iDeCo」individual-type Defined Contribution pension plan個人型確定拠出年金のことで、自分で作る年金制度のこと。加入者が毎月一定の金額を積み立て(掛金を拠出するという)、あらかじめ用意された定期預金・保険・投資信託といった金融商品で自ら運用し、60歳以降に年金または一時金で受け取るシステム。
以上